ISO8501-1とSSPCのパワーツール(電動工具)/ハンドツール(手動工具)のグレードの比較

この記事では、ISOとSSPCそれぞれのパワーツール(電動工具)/ハンドツール(手動工具)による素地調整の規格を比較します。
ISO8501-1(こちらの外部サイトで購入可能。)は、日本を含む北米以外の多くの地域で採用されている規格で、対してSSPCは北米で用いられている規格です。
まずは、素地調整の規格の表で概要を確認します。

国際標準化機構
ISO 8501-1
アメリカ
SSPC
(ブラスト)
アメリカ
SSPC
(パワーツール(動力工具)/
ハンドツール(手工具))
日本での一般呼称 日本造船研究協会
SPSS
サンドグリッド
日本造船研究協会
SPSS
ショット
除錆率
Sa3 SP-5
ホワイトメタルブラスト
―― 1種ケレン Sd3 Sh3 99%以上
Sa2 1/2 SP-10
ニアホワイトブラスト
SP-11(パワーツール/動力工具)
SP-15(パワーツール/動力工具)
Sd2 Sh2 95%以上
Sa2 SP-6
コマーシャルブラスト
―― Sd1 Sh1 67%以上
Sa1 SP-7
ブラッシュオフブラスト
―― ―― SS ―― ――
St3 ―― SP-3(パワーツール/動力工具) 2種ケレン Pt3 ―― ――
St2 ―― SP-2(ハンドツール/手工具) 3種ケレン Pt2 ―― ――

表1のとおり、 SSPCには パワーツール(電動工具)/ハンドツール(手動工具) に4つのグレード(SP2、SP3、SP15、SP11)があります。
ISO8501-1には2つのグレード(St2、St3)があります。

SSPCの各グレードは、SSPC-VIS3(こちらの外部サイトで購入可能)という資料の中で写真とともに詳細な説明がなされています。
ISO8501-1においてもSSPCと同様で、写真と文章でSt2とSt3の各グレードを説明しています。
ISO、SSPCどちらにおいても、文章と写真でグレードを示すことが不可欠だと考えられています。

1、 パワーツール(動力工具)/ハンドツール(手動工具) での素地調整の特徴

パワーツール(動力工具)/ハンドツール(手動工具) によるケレンの方法はブラストとは異なります。
ブラストでのケレンは、一般的には研削材を垂直に処理面に当てて塗膜を剥離します。
その結果、弱く付着している塗膜から強固に付着している塗膜、の順に塗膜を除去していいきます。

パワーツール(動力工具) のニードルスケーラーやニードルガンは、ニードルをブラストと同じように叩いて塗膜を剥離するため、弱く付着している塗膜から強固に付着している塗膜の順に、塗膜を除去していきます。

一方、サンダーやディスクグラインダーは、表面の塗膜から順に剥離します。
サンダーやディスクグラインダーは、動作時の特徴により塗膜の表面から順に削り取ることが可能なので、金属面に与えるダメージはブラストやニードルガン/ニードルスケーラーと比較して小さくなります。
ただし、ブラストやニードルスケーラーなどと異なり、ピットやくぼみにディスクをあてることができないため、ピットの塗膜の除去はできません。

ワイヤーブラシも、サンダーやディスクグラインダーと同様に塗膜表面から削り取っていきます。

その他のツール(ロータリーフラップ、ワイヤーブリストルインパクト、ワイヤーフレイル)は、叩いて塗膜を剥離する工具(ニードルスケーラー/ニードルガン)とサンダーやディスクグラインダーのような回転して塗膜を剥離する工具を組み合わせたような工具のため、塗膜剥離後はニードルスケーラーやサンダーやディスクグラインダーとは異なる表面プロファイルが形成されます。

2、 ISOとSSPCのパワーツール(電動工具)/ハンドツール(手動工具)のグレード

この項では、ISOとSSPCの各グレード(St2、St3、SP2、SP3、SP15、SP11)について詳しくみていきます。

(1) ISO8501-1の パワーツール(電動工具)/ハンドツール(手動工具) のグレード

St2: 拡大鏡なしで、全ての表面の目視できる油、グリース、汚れ、弱く付着したミルスケール(黒皮)、サビ、塗料、腐食生成物等が除去されている状態。
St3: 拡大鏡なしで、全ての表面の目視できる油、グリース、汚れ、弱く付着したミルスケール(黒皮)、サビ、塗料、腐食生成物等が除去されている状態。 ただし、金属光沢を出す。

ISOでは パワーツール(電動工具)/ハンドツール(手動工具) を分けておらず、鋼材状況のみでグレードを決定しています。

(2) SSPCの パワーツール(電動工具)/ハンドツール(手動工具) のグレード

SP2(St2に相当):ハンドツールによる処理。弱く付着したミルスケール、さび、塗膜、その他有害な物質を全て除去。固着したミルスケール、さび、塗膜の除去は想定していない。
SP3(St3に相当):パワーツールによる処理。弱く付着したミルスケール、さび、塗膜、その他有害な物質を全て除去。固着したミルスケール、さび、塗膜の除去は想定していない。
上記の通り、2つのグレードの文章での表現は一言一句全く同じです。そのため、写真で素地調整程度を確認する必要があります。

SP15(SP6の表面に近似):拡大鏡なしで全ての表面の目視できる油、グリース、汚れ、サビ、塗料、酸化物、ミルスケール、腐食生成物等が完全に除去されている状態。33%未満での程度の軽いShadow、筋、サビに起因する汚れによる変色、ミルスケールによる変色や以前の塗装に起因する汚れは許容される。 過去に表面がピッチング処理されている場合は、サビ、塗料のわずかの残滓がピットのくぼみに残ることは許容される。
SP11:拡大鏡なしで全ての表面の目視できる油、グリース、汚れ、サビ、塗料、ミルスケール、酸化物、腐食生成物等が完全に除去されている状態。過去に表面がピッチング処理されている場合は、サビ、塗料のわずかの残滓がピットのくぼみに残ることは許容される。ブラスト工法規格のSP-10(ニアーホワイト)またはSP-6(コマーシャルブラスト)に似る。

以上の通り、SP15とSP11の2つの違いは、「33%未満のサビ、塗料、ミルスケールの汚れが残ってもよい」かどうかです。
SSPC-VIS3(こちらで購入可能)の写真を確認するとわかりますが、素地調整前のピットの状況により、SP11とSP15ともに素地調整後の仕上がりが変わります。

SP15の写真を見みると、Dの表面はBの表面に比べて全体的に汚れが残っています。同じように、SP11でもDの表面のほうがBよりも汚れが残っています。

まとめ

この記事では、ISOとSSPCのパワーツールとハンドツールの規格についてみてきました。

St2とSt3は、SSPCのSP2とSP3とそれぞれ同等で、弱く付着した汚れを全て除去する必要がありますが、それ以上は求められていないことが。SP15とSP11は、SP2やSP3の上位グレードで、全ての弱く付着した汚れを除去しますが、固着した汚れも一定程度除去する必要があることがわかりました。

ISOにはSP15とSP11と同等のグレードがなく(電動工具と手動工具を使用した素地調整はSt2、St3のみのため)、SSPCがパワーツールとハンドツールにおいてもブラストと同じように複数のグレードを提示していることがわかりました。

ISOとSSPCにはそれぞれ素地調整前の鋼材の状況を複数提示しており、最終的な素地調整程度は素地調整前の状況によってかわるため、それぞれの規格の写真を参考にする必要があります。

ISO、SSPCどちらも文章と写真でグレードを定義しており、同規格を適用する場合は、文章と写真どちらか一方ではなく、文章と写真双方の確認がかかせません。

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