建設現場の安全を守る:足場からの落下防止措置と点検義務の最新動向

建設現場の労働災害でもっとも多い墜落・転落災害を防ぐために、国は2015年7月1日に労働安全衛生法規則を改正しました。これにより、足場からの墜落防止のための措置が強化されています。安全衛生担当者は作業員が安全に作業をおこなえるように、足場からの落下防止対策を理解しておかなければなりません。

この記事では、足場の落下防止のための安全対策について解説します。

足場における落下防止の基本

足場作業中の落下防止を考えるためには、落下と墜落の違いについて理解しておかなければなりません。「落下」とは高所から地面へ物体が落ちること全般を指し、「墜落」とは、身体が完全に宙に浮いた状態で高所から落ちることを指します。また、「転落」とは階段や坂道などに接しながら落ちることを指します。労働安全衛生規則では、墜落を防ぐため、高さ2メートル以上の箇所で作業をおこなうときは、作業床を設けて、その作業床の端や開口部には囲いや手すり、覆い等を設けなければならないとされています(第518条)。

つまり、事業者は足場の端部や開口部、人が通る通路などの危険箇所には幅木やネット、手すりを設置するなど安全に作業をおこなえるように環境を整備しなければなりません。

墜落・転落・転倒の違いについては下記でくわしく解説しています。

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足場の種類と設置基準

労働安全衛生規則改正により、足場からの落下防止措置が強化されました。2023年10月1日より順次施行されています。ここでは足場の種類とその設置基準について解説します。

足場の種類

足場には「組立足場」と「吊り足場」の2種類に分けられ、用途や目的に応じて以下のような種類があります。

足場はそれぞれ使われる部材や構造が異なります。足場崩落による災害もあるため、作業員は安全に作業をするためにも「足場特別教育」の受講が義務づけられています。

足場の設置基準

高さ2mを超える場所に足場を設置するときの基準は以下の通りです。

  • 足場の幅は40cm以上
  • 床材間のすき間は3cm以下
  • 床材と建地のすき間は12cm未満

建地とは足場において垂直に立てられた支柱のことです。作業面に平行な方向に1.85m以下の間隔で設置します。足場の種類によっては設置間隔が異なります。

【一側足場の使用範囲】

法改正により、一側(ひとかわ)足場の使用範囲が明確化されています。建地の片側のみに足場を敷き詰めた一側足場は脆弱性が指摘されており、墜落災害も起きていました。このたび法改正によって使用が制限されることになりました。

2024年4月1日より、幅1m以上の場所に足場を設置するときは本足場の設置が義務となります。つり足場や撤去困難な障がい物があるときはこの基準は該当しませんが、厚生労働省は可能な限り本足場の使用を要望しています。

このように足場からの落下防止対策として、法改正による制度変更もあることから、安全衛生担当者は墜落防止措置など各制度や改正点を正しく理解しておかなければなりません。

足場の落下防止のための4つの安全対策

足場からの落下防止のための安全対策は、足場や作業床だけではなく、作業員が使用する墜落制止用具の使用や危険箇所に対する措置などがあげられます。それぞれくわしく解説しましょう。

1. 足場の高さ2m以上の作業床の要件

作業床を備えた足場で作業をするときは、墜落を防ぐために「手すり先行工法」を使用します。足場の種類ごとに以下のような要件が定められています。

工具など物体の落下防止には、幅木やメッシュシート、安全ネットを使用します。こうした落下防止設備の設置や取りはずし作業をするときは、作業をおこなう作業員を立ち入らせないように注意しましょう。墜落制止用器具も正しく装着しましょう。

2. 組立・解体作業に係る墜落防止措置

足場の組立や解体、変更の作業に関する墜落防止措置も強化されました(労働安全衛生規則第564条)。これまでは高さが2m以上の足場における作業床の要件は幅40cm以上、床材のすき間は3cm以下となっていました。法改正により、作業床の要件にと「床材と建地のすき間を12cm未満」が追加されています。(一側足場、吊り足場を除く)

出典:厚生労働省「足場からの墜落防止のための措置を強化します」

作業床と建地のすき間を12cm以下にするために、片側のすき間が12cm以上となるときは要件を満たしません。作業床の幅を変えて両端が12cm以下になるように組み合わせてください。幅木は作業床の幅には含まれませんので注意してください。

3. 墜落制止用器具取付設備の使用

足場の設置が難しい場所で作業員の安全を守るには、安全設備の設置が必要です。厚生労働省の「墜落防止のための安全設備設置の作業標準マニュアル」では、足場の設置が難しい屋根作業における落下防止対策についてまとめられています。

高さ2m以上の高所では、墜落を防ぐために作業床の設置が必要ですが、それが難しいときは、墜落制止用器具の着用が義務づけられています。足場が設置できない場所では、墜落制止用器具を取り付けるための設備を設けなければなりません。

墜落制止用器具はベルト型とフルハーネス型がありますが、高さ5m以上の場所はフルハーネス型が原則です。

4. 足場の昇降階段・仮設通路・開口部の落下防止対策

昇降階段や仮設通路、開口部などの危険箇所には、手すりや安全ネット、中さんを設けて落下防止対策をおこなわなければなりません。昇降階段の開口部には高さのある手すりの設置や飛来物を防ぐために養生ネットをかぶせておくことも大切です。

足場と建物の間にすき間があると、そこから落下するおそれがあります。足場と建物の間は12cm以下になるように設置してください。建物の構造や土地の広さなどで、12cm以下に設置できないときは手すり、ネットなどを設けて、作業員は墜落制止用器具を使用するなど対策をすることが大切です。

落下防止のための足場点検が義務化

国は2023年10月1日より注文者にも点検を義務付けました。これにより足場の点検に関していくつか内容が変更となっています。内容についてくわしく解説します。

点検者の指名が必要

2023年10月1日より、工事を発注する注文者にも点検が義務づけられ、点検者の指名が必要となりました。点検者の指名は書面または口頭で伝達、事前に決めた指名順に沿ってメールまたは電話で伝えるといった方法があります。指名をする人は点検者として責任をもって取り組んでもらえる人を選ばなければなりません。

点検者は法令に則った点検をするために、足場に関して熟知している必要があります。そのため、指名をする点検者には以下の資格保有者または受講修了者が望ましいとされています。

  • 足場の組立て作業主任者能力向上教育講習修了者
  • 労働安全コンサルタント(試験区分が土木・建築に限る)
  • 仮設安全監理者資格取得講習の受講者
  • 施工管理者のための足場実務研修の修了者

足場からの墜落・落下防止にあたって、足場の能力向上教育は各事業者の努力義務となっています。しかし、資格によっては一定の実務経験が必要ということもあり、各事業者は点検者を養成するためにも、作業員へ各研修や講習を受講する機会を与えるように努めてください。

足場の点検事項・時期

足場の点検には「足場等の種類別チェックリスト」を使います。「わく組足場」「単管足場」「くさび緊結式足場」「つり(棚)足場」で点検事項が異なるため、足場の種類にあわせたものを選びましょう。点検を実施するタイミングは以下のとおりです。

  • 作業開始前
  • 足場の組立て・解体・変更後
  • 悪天候または中震以上の地震の後

点検項目は手すりや巾木、中さんなどがあり、チェックリストを用いて点検を実施します。たとえば以下のような個所を点検します。

①床材の損傷、取付け及び掛渡しの状態

②建地、布、腕木等の緊結部、接続部の及び取付部のゆるみの状態

③緊結材及び緊結金具の損傷及び腐食の状態

④墜落防止設備(則第563条第1項第3号イからハまでの設備)の取りはずし及び脱落の有無

⑤幅木等(物体の落下防止措置)の取付状態及び取りはずしの有無

⑥脚部の沈下及び滑動の状態

⑦筋かい、控え、壁つなぎ等補強材の取付状態及び取りはずしの有無

⑧建地、布及び腕木の損傷の有無

⑨突りょうとつり索との取付部の状態及びつり装置の歯止めの機能

上記は枠組足場の点検事項です。チェックリストには点検した足場の種類以外に、工事名や点検実施理由を記載します。2023年10月1日からは点検者の氏名も記載することが定められました。

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